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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和54年(行コ)2号 判決

控訴人(原告) 鳥越重雄

被控訴人(被告) 日本専売公社鹿児島地方局長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人が昭和四九年六月四日控訴人に対してしたたばこ小売人不指定の処分を取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

との判決。

二  被控訴人

主文同旨の判決。

第二当事者双方の主張及び証拠関係

当事者双方の事実上の陳述及び証拠関係は、次につけ加えるほか、原判決事実摘示(ただし、原判決書九枚目裏一一行目、同一〇枚目表九行目、同裏八行目、九行目、一三行目中各「坂元」をいずれも「坂本」に改める。)と同じであるから、ここにこれを引用する。

(主張)

一  控訴人

1 坂本酒店は、昭和四八年六月ころたばこ小売人指定申請をしたところ同年一一月不指定となり、同四九年三月に再度申請をして指定されたのであるが、右指定当時、いわゆるオイルシヨツクによる木材の値上りや建築単価の異常な高騰により住宅建築は止まつてしまい、坂本店の後背地に住宅が密集しつつあつたという状況は全く存在しなかつたから、坂本酒店の場合に環境区分を住宅地(A)に変更しなければならない状況ではなかつたのに、これを住宅地(A)に変更したのは被控訴人が右規程等の運用を恣意的になしたものである。

2 控訴人の昭和四八年八月の申請と大迫智利による同四九年一月一七日の申請とは参考競願の関係に立ち、控訴人には運用要領所定の欠格事由がなかつたことは明らかであるから、結局、大迫に優位性が認められたのは大迫の予定営業所の位置が錫山街道に面し、かつ三叉路の角地にあつたという事実に過ぎない。しかし、地理的条件とともに人の集り易い場所かどうかも考慮されるべきところ、控訴人は大迫よりもはるかに以前から食料品、雑貨の店舗を開いて一定の得意客を掴んでおり、営業時間も大迫に比し二時間も長いのであるから、このような点を看過して単に地理的条件のみにこだわることは、たばこ販売という業種の性質上問題がある。さらに、大迫と控訴人方とは僅か九〇メートルしか離れておらず、その周辺の環境は新興住宅地であるからほとんど変りはなく、標準距離不足という不指定の理由は被控訴人の判断の誤りにより作出されたもので、合理的理由とはいえない。

3 運用要領2・1・(2)によれば、「支部局長は、管轄区域内における環境区分認定の均衡を失しないよう統計資料等に基づき統一的認定の指導に努めなければならない。」とされているにもかかわらず、その運用が統一的になされていない事例として、控訴人は昭和三二年ころ鹿児島市鴨池一丁目附近で標準距離に著しく不足する関係にある二か所の店舗が小売人に指定された事実を指摘したが、行政手続の不公正が問題となつている本件においては、右の事実は本件処分の適否の判断に影響を及ぼすものというべきである。

二  被控訴人

1 控訴人に対する不指定の理由は、控訴人の予定営業所と既指定小売人大迫店との距離及び控訴人の取扱予定高が基準を満たしていないことによるものであつて、坂本店指定の事情は、控訴人に対する不指定処分の適法性に直接影響を及ぼすものではない。なお、坂本店が小売人の指定を受けた昭和四九年六月当時、坂本店の地域はすでに住宅地(A)とされていた。すなわち、右指定当時坂本店の周辺にはさほど住宅の密集はなかつたものの、将来の見込みとして住宅の密集化は十分予想されたし、その予想が正しかつたことは、指定後の坂本店及び大迫店のたばこ売上高の推移をみても明らかである。そして、控訴人及び大迫店の地区は坂本店の地区より一年遅れて住宅地(A)に区分変更されたが、右の事実は、この地区一帯にわたつて控訴人の主張とは逆に住宅が密集化する傾向にあつたことを物語つている。ただ、控訴人の地区と坂本店の地区とでは、その程度に差異があつて指宿街道あるいは指宿線に近い坂本店の地区の方に密集化傾向が高いと判断されたので、さきに住宅地(A)と区分されたのである。

2 たばこの購買傾向を考える場合、予定営業所が交通量の多い道路の三叉路に面しているか、それとも道路から引つ込み三叉路からの見通しもきかないという違いは大きく影響するものである。営業時間の違いは早朝と深夜のことであつて決定的意味をもつとは考えられず、また、控訴人が古くからの食料品店で地区住民になじみが多いといつても、それは指定前の事情であつて指定された後は大迫店もなじみを生じるのであり、将来の購買傾向を考えると大迫店の優位は明らかである。

3 控訴人は昭和三二年ころの鹿児島市鴨池一丁目の指定事例を問題にするけれども、坂本店の場合と同様直接本件不指定処分の適法性を左右するものではないし、当時のたばこ小売人指定関係の基準であつた「製造たばこ販売事務取扱手続」が現在の運用基準と異なるのであるから、二〇年前の事例と現状を同一基準で比較してその当否を論ずることは無意味である。

(証拠関係)〈省略〉

理由

当裁判所は、原判決書一五枚目裏一〇行目中「尋問の結果」の下に「(原審及び当審)」を加え、同一六枚目裏九行目中「規定」を「規程」に改め、同一七枚目表末行の「証拠はない。」の下に「もつとも、前掲乙第一七号証及び当審における控訴人本人尋問の結果によると、控訴人方は大迫店より約二〇年も以前から現在地に店舗を構えて食料品や雑貨類の小売商を営み、また、営業時間の点では大迫店が午前七時から午後九時までであるのに対し、控訴人方は午前六時から午後一〇時までで早朝と夜の各一時間長く営業をしていることが認められる。しかし、どの小売店で購入しても品質価格が同一であるというたばこ販売の特殊性にかんがみると、参考競願の関係に立つ前記両申請の優劣を比較するにあたつて、他に特段の事情がない限り、老舗や営業時間もさることながら予定営業所の地理的条件がきわめて重要な要素であると考えられるところ、前記認定のとおり地理的条件において大迫店の優位は動かすべくもない。また、控訴人方と大迫店周辺の環境がいずれも新興住宅地という点で差異がないという事情も、右の結果を左右するものではない。」を、同一八枚目表二行目中「事案であつて、」の下に「しかも、運用要領2・1・(2)の趣旨は、被控訴人がたばこ小売人指定申請の当否を判断するにつき、環境区分は重要な基礎資料となるべきものであるから、処分の公平を期するため、支部局長が管轄区域内における環境区分の認定をなすにあたつては、類似の地域についてはできる限り同一の環境区分に認定されるよう統計的資料に基づいてその統一的認定の指導に努めなければならないことを定めたものと解されるが、成立に争いのない乙第一六号証及び原審証人福元猛(第二回)の証言によれば、昭和三二年当時のたばこ小売人指定関係の基準は「製造たばこ販売事務取扱手続」に依拠していたところ、現行の規程等とは異なり標準距離の要件を満たしていなくても取扱予定高が標準取扱高に達すると認められる場合には小売人の指定をなしうるものと定められていたこと(同取扱手続一三条一項三号但書)が認められる。右のように昭和三二年当時は指定の基準を異にしていたのであるから、異なる基準の下における事例を指摘しても、」を加え、同八行目、一三行目中「坂元」を「坂本」に、同末行中「前記」から同一八枚目裏一行目中「よると」までを「前掲乙第七号証、当審証人奥喜一郎の証言により真正に成立したと認める乙第一八号証、原審証人福元猛(第二回)、当審証人奥喜一郎の証言によると」に、同行中「坂元」を「坂本」に、同四行目中「坂元酒店」から同七行目中「認められ、」までを「坂本店の周辺には住宅がさほど密集しているという状況にはなかつたものの、周囲の状況からして近い将来において住宅が密集する形勢にあり、運用要領2・1・(4)によれば「環境変化の著しい地域についてはあらかじめ一年程度の状況を見込んで認定しなければならない。」とされているところ、指宿街道や国鉄指宿枕崎線に近い坂本店の地区に右のような密集化傾向が高いと判断されたので、これを住宅地(A)と環境区分し、続いて右傾向が控訴人方の地域にも及び翌昭和五〇年には控訴人方の地域も住宅地(A)に変更されたこと、坂本店が小売人の指定を受けた昭和四九年六月以降同五〇年三月までの間における坂本店のたばこ売上高は一か月平均金三九万二〇〇〇円であつたが、昭和五〇年四月から同五一年三月までの間における一か月平均の売上高は金六〇万一〇〇〇円と飛躍的に上昇していることが認められ、甲第七号証の一、二、第八、第九号証、第一〇号証の一ないし四、第一一号証の一ないし八及び当審における控訴人本人尋問の結果をもつてしても前記認定を左右するに足りないし、他に」に改め、同九行目中「右認定事実によると、」の下に「昭和四九年ころ坂本店の地区につき環境区分を住宅地(B)から住宅地(A)に変更したことが規程等の恣意的な運用によるものとはとうてい解することができず、右環境区分の変更により同地区の標準距離は二〇〇メートルとなつたので、」を加え、同行中「坂元」を「坂本」に改めるほか、原判決と同じ理由で、控訴人の本訴請求は理由がなく、これを失当として棄却すべきものと判断するので、ここに原判決の理由を引用する。

したがつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がない。

よつて、本件控訴を棄却し、控訴費用は敗訴の当事者である控訴人に負担させることとして、主文のように判決する。

(裁判官 舘忠彦 松信尚章 西川賢二)

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